スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・アレクシエーヴィッチ、1948年5月生まれ。日本のよく知られた作家で同じ世代は例えば誰かというと、村上春樹、1949年1月生まれ。同じ国生まれなら同学年だ。二人とも両親が教師という家に生まれている。村上氏の小説に、1999年の『スプートニクの恋人』というのがある(彼の小説としては、珍しく女性は“帰ってくる”)。その後全体主義が題材となった著作も書いている。
7年後に生まれた私は冷戦の時代に多感な時期を過ごした。1962年のキューバ危機の時に世界はどうなってしまうのだろうと恐怖におののき、スプートニク計画とアポロ計画のしのぎ合いでは手に汗を握りながら白黒テレビを観ていた。強大なソ連。それが、何ともはや、・・・・あれよあれよの間に・・・1991年12月崩壊。あの時は開いた口がふさがらなかった。
海の向こうの日本人の私でもそうだったのであるから、現地にあってスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチが受けたショックはとんでもないものがあっただろう。
本書は旧ソ連邦に生きた人々へのインタビューを題材にしている。2013年に出版されたので、ソ連崩壊から20年以上が過ぎてから世に出た事になる。私はこの本を発売当日買い求めたが、五部作最後の作品という事も手伝い、読み切るのがもったいなくなり四割程読み終わったところでとっておくことにしていた。続きをぼちぼちと読み始めている。
本は前作までと同様、聞き書きを通して、大事件や社会問題を描いている。本作は、1999年に出版され、ピューリッツァ賞受賞作となった、ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』と並び称されてもいいほどの著作であると言ってよいように思う。その一方で、終戦直後の日本にスポットを当て日本に民主主義が定着する過程を描き、ある意味、救われる部分がある後者とは全く異質の現実を活写している。
著者前書きの前に、歴史書でよく用いられるように名言が二つ記されている。
― 犠牲者と迫害者は同じように不快である。それは、堕落においての兄弟関係であるということを、収容所の経験から学んだ。
ダヴィド・ルセ 『われらが死の日々』
― いずれにせよ、わたしたちは覚えておかねばならない。世界において悪の勝利に責任があるのは、第一に、盲従的に悪を実行する人びとではなく、善に仕える精神的に明晰な人びとであるということを。
フィードル・スチェプン 『起きたことと実現しなかったこと』
続く前書きの題名は、“共謀者の覚え書き”。
そして言う。
“わたしがさがしていたのは、思想と強く一体化し、はぎとれないほどに自分のなかに思想を入らせてしまった人で、国家が彼らの宇宙になり、彼らのあらゆるものの代わりになり、彼らの人生の代わりにさえなった、そういう人々。“
例えば、あるものは言う。
“僕らは腰抜け世代、うらぎり者世代だ。ぼくらの子供たちは、そういう判決をぼくらに下すだろう。「親たちは、ジーンズ、マルボロ、ガムと交換に、偉大な国を売った」というだろう。”
はたまた、
“アフロメーエフの自殺を僕は信じていない。気骨のある将校が細ひもで首をつったりするもんか・・・・ケーキの箱のリボンで・・・・。囚人みたいに。刑務所の監房ではああやって、足をおりまげてすわって、首をつるんです。ひとりで。これは軍隊の伝統にはない。”
本の全体は、
■第一部 黙示録による慰め
■第二部 空の魅力
からなる。
一旦読みだすと止まらなくなってしまうほどにひきこまれてしまうので、五部作の中では圧倒的ボリュームがありますが、読み切れるのか・・・などの心配はご無用です。五部作の第1作に当たる『戦争は女の顔をしていない』も優れていますが、本作はそれを上回ると思っています。
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セカンドハンドの時代――「赤い国」を生きた人びと 単行本 – 2016/9/30
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
(著),
松本 妙子
(翻訳)
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2015年ノーベル文学賞作家、最新作!
2013年メディシス賞(エッセイ部門)受賞[フランス]
2014年ボリシャーヤ・クニーガ賞(読者投票部門)1位[ロシア]
2015年リシャルト・カプシチンスキ賞受賞[ポーランド]
「思想もことばもすべてが他人のおさがり、なにか昨日のもの、だれかのお古のよう」
1991年、ソ連が崩壊した。20世紀の壮大な実験ともいわれるこの国での日々は、人びとの心になにを残したのだろうか。共産主義下の暮らしを生きていた人間の声を書き残すべく、作家はソ連崩壊直後から20年以上にわたって数多くの聞き取りをおこなった。自殺者の家族、収容所の経験者、クレムリンの元幹部、民族紛争を逃れた難民、地下鉄テロの被害者、デモに参加して逮捕拘禁された学生。街頭や台所で交わされ響きあう幾多の声から、「使い古し(セカンドハンド)の時代」に生きる人びとの姿が浮かび上がる――。21世紀に頭をもたげる抑圧的な国家像をとらえたインタビュー集。著者のライフワーク「ユートピアの声」完結作。
2013年メディシス賞(エッセイ部門)受賞[フランス]
2014年ボリシャーヤ・クニーガ賞(読者投票部門)1位[ロシア]
2015年リシャルト・カプシチンスキ賞受賞[ポーランド]
「思想もことばもすべてが他人のおさがり、なにか昨日のもの、だれかのお古のよう」
1991年、ソ連が崩壊した。20世紀の壮大な実験ともいわれるこの国での日々は、人びとの心になにを残したのだろうか。共産主義下の暮らしを生きていた人間の声を書き残すべく、作家はソ連崩壊直後から20年以上にわたって数多くの聞き取りをおこなった。自殺者の家族、収容所の経験者、クレムリンの元幹部、民族紛争を逃れた難民、地下鉄テロの被害者、デモに参加して逮捕拘禁された学生。街頭や台所で交わされ響きあう幾多の声から、「使い古し(セカンドハンド)の時代」に生きる人びとの姿が浮かび上がる――。21世紀に頭をもたげる抑圧的な国家像をとらえたインタビュー集。著者のライフワーク「ユートピアの声」完結作。
- 本の長さ624ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2016/9/30
- 寸法12.9 x 4.5 x 18.8 cm
- ISBN-104000611518
- ISBN-13978-4000611510
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商品の説明
著者について
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(Светлана Алексиевич)
1948年ウクライナ生まれ.国立ベラルーシ大学卒業後,ジャーナリストの道を歩む.綿密なインタビューを通じて一般市民の感情や記憶をすくい上げる,多声的な作品を発表.戦争の英雄神話をうち壊し,国家の圧制に抗いながら執筆活動を続けている.『戦争は女の顔をしていない』『ボタン穴から見た戦争──白ロシアの子供たちの証言』(ともに群像社,のち岩波現代文庫)『アフガン帰還兵の証言──封印された真実』(日本経済新聞社)『完全版 チェルノブイリの祈り──未来の物語』(岩波書店)など.上記四作を「ユートピアの声」シリーズと位置づけ,本書により五部作完結.2015年ノーベル文学賞受賞.
松本妙子(まつもとたえこ)
1973年早稲田大学第一文学部露文科卒業.翻訳家.アレクシエーヴィチの『死に魅入られた人びと──ソ連崩壊と自殺者の記録』(群像社)『完全版 チェルノブイリの祈り──未来の物語』(岩波書店)を翻訳.
1948年ウクライナ生まれ.国立ベラルーシ大学卒業後,ジャーナリストの道を歩む.綿密なインタビューを通じて一般市民の感情や記憶をすくい上げる,多声的な作品を発表.戦争の英雄神話をうち壊し,国家の圧制に抗いながら執筆活動を続けている.『戦争は女の顔をしていない』『ボタン穴から見た戦争──白ロシアの子供たちの証言』(ともに群像社,のち岩波現代文庫)『アフガン帰還兵の証言──封印された真実』(日本経済新聞社)『完全版 チェルノブイリの祈り──未来の物語』(岩波書店)など.上記四作を「ユートピアの声」シリーズと位置づけ,本書により五部作完結.2015年ノーベル文学賞受賞.
松本妙子(まつもとたえこ)
1973年早稲田大学第一文学部露文科卒業.翻訳家.アレクシエーヴィチの『死に魅入られた人びと──ソ連崩壊と自殺者の記録』(群像社)『完全版 チェルノブイリの祈り──未来の物語』(岩波書店)を翻訳.
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2016/9/30)
- 発売日 : 2016/9/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 624ページ
- ISBN-10 : 4000611518
- ISBN-13 : 978-4000611510
- 寸法 : 12.9 x 4.5 x 18.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 261,149位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 164位西洋史
- - 682位ヨーロッパ史一般の本
- - 1,756位その他の歴史関連書籍
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年2月7日に日本でレビュー済み
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2022年5月24日に日本でレビュー済み
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ソ連が国民に何をしていたかよくわかる本ですね、ソ連時代に戻ろうとするロシアは酷い国である。
2020年4月30日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ノーベル賞作家のアレクシェーヴェチが手がけるユートピアシリーズ最終巻。これまで独ソ戦、チェルノブイリ、アフガン侵攻……とソヴィエトを綴ってきた同作者の集大成がこの本です。私たちが歴史の教科書で習うマクロな視点ではなく、事件の渦中にいた人々への綿密なインタビューによって組み立てられたミクロな実話は胸にくるものがあります。
2016年12月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
昨年のノ-ベル文学賞を受賞したスヴェトラ-ナ・アレクシエ-ヴッチの最新作「セカンドハンドの時代」の翻訳が9月に出版され話題になっている、最高傑作だと。そのとおりだ。
まだ世界が平和だった20年前。私は、ソ連時代に閉鎖都市とされていた地方の町に住む多くのロシア人たちと友人になった (モスクワはこの時に、すでに最悪の政治都市、狂乱の資本主義と媚態にあふれた魔都だった)。まだ、手垢にまみれた資本主義にそまらぬ人々。語り合ったたくさんのことがこの本の内容に重なる。そうだよな、ベリコフ、ソ連崩壊でなにが残念かといえば共産主義を笑う小話が話せなくなったのが悲しい? それだけのことなのか、ミ-シャ、ソ連が嫌いだったわけじゃないんだね。その町の、物がないからっぽの店。いまではみんなどうしているだろう?
「私は理想のために死ぬ覚悟でいた。戦闘で戦う覚悟でいた。ところが、はじまったのは・・歴史をもたない暮らし。あらゆる価値が音をたてて崩れた。新しい夢は、家を建てること、いい車を買うこと、スグリを植えること・・。自由とはロシアの生活において横っ面をはたかれている俗物根性の復権のことだったのだ。」民主主義、資本主義という欧米のイデオロギ-を先取りした国々の、しかし、そこでも今ではうんざりされつつある手垢のついた中古品、民主主義。セカンドハンドの時代、それが今のロシア。「未来はなんだか、あるべき場所からいなくなっている」。
共産主義の時代、こんな小話が盛んだった。「共産主義者、これはマルクスを読んだ人のこと。反共産主義者、これはマルクスを理解できた人のこと」。こうした小話が台所の主婦たちの生活。そこには、「すばらしい愛があり、すばらしい女性たちがいた。あの女性たちは金持ちを軽蔑していた。いまじゃ、だれも感情のことを考えるひまがない。カネを発見したこと、これは原子爆弾の爆発みたいだ。」主婦たちは、民主主義や自由がほしかったのではない。「大部分の人達は反ソヴィエト的な気分でなくて、望んでいたのはひとつだけ。生活がよくなること。」2000年の魔都モスクワでは、女性たちはシースル-で高級ホテルのロビ-を歩いている。夜には、見たことのないほどの美しい女性たちがクラブで勝ち誇っている。
著者のインタビュ-に対して、クレムリンで働いていた人物がこう指摘する。「あなたは人間に、人間の正義に信頼をおかれているようだが、いただけませんね。歴史とは、思想の生涯なのです。歴史を書いているのは人々でなく、時代です。人間の正義というのはクギで、そのクギに一人ひとりが自分の帽子をひっかけているのです。」典型的なヘーゲリアン。ひとりの人間という小さな空間の中に時代を映すなにもかもが隠れていると言う例えば小説家たち、個人という存在そのものがそもそも時代と社会の関係でしか現れないとするヘーゲル哲学、よく考えればふたりとも同じことを言っている。どちらからはいっても行き着くところは時代への内省。
「国民はふつうのものを待っているのです。糖蜜菓子がたっぷりある生活を。そして、皇帝を待っている。・・我が国はメンタリテイや潜在意識の面で皇帝の国なのです。・・父なる皇帝なのですよ。書記長、大統領というのは、わが国ではやっぱり皇帝なんです。」帝国主義へのノスタルジ-。2016年のいまではこれはロシア人だけの特権ではない。
「冬になるとここは雪におおわれるの。村がすっかり雪んなかだよ。・・首都はどうなってんの? ここからモスクワまで1000キロもあるからね。プ-チンとア-ラ・プガチュフはわかるけど・・あとは誰がだれやら。あたしらはここで、昔も今も同じ暮らし。社会主義のときも、資本主義のときも。春がくるのを待たなくちゃ。ジャガイモの植え付けをしなくちゃ。」そういえば来年2月に植え付けるジャガイモの植え付けのための準備をしないと。ことしの夏の長く続いた雨で北海道の種イモは期待できそうもない。どこからか調達しないと。
まだ世界が平和だった20年前。私は、ソ連時代に閉鎖都市とされていた地方の町に住む多くのロシア人たちと友人になった (モスクワはこの時に、すでに最悪の政治都市、狂乱の資本主義と媚態にあふれた魔都だった)。まだ、手垢にまみれた資本主義にそまらぬ人々。語り合ったたくさんのことがこの本の内容に重なる。そうだよな、ベリコフ、ソ連崩壊でなにが残念かといえば共産主義を笑う小話が話せなくなったのが悲しい? それだけのことなのか、ミ-シャ、ソ連が嫌いだったわけじゃないんだね。その町の、物がないからっぽの店。いまではみんなどうしているだろう?
「私は理想のために死ぬ覚悟でいた。戦闘で戦う覚悟でいた。ところが、はじまったのは・・歴史をもたない暮らし。あらゆる価値が音をたてて崩れた。新しい夢は、家を建てること、いい車を買うこと、スグリを植えること・・。自由とはロシアの生活において横っ面をはたかれている俗物根性の復権のことだったのだ。」民主主義、資本主義という欧米のイデオロギ-を先取りした国々の、しかし、そこでも今ではうんざりされつつある手垢のついた中古品、民主主義。セカンドハンドの時代、それが今のロシア。「未来はなんだか、あるべき場所からいなくなっている」。
共産主義の時代、こんな小話が盛んだった。「共産主義者、これはマルクスを読んだ人のこと。反共産主義者、これはマルクスを理解できた人のこと」。こうした小話が台所の主婦たちの生活。そこには、「すばらしい愛があり、すばらしい女性たちがいた。あの女性たちは金持ちを軽蔑していた。いまじゃ、だれも感情のことを考えるひまがない。カネを発見したこと、これは原子爆弾の爆発みたいだ。」主婦たちは、民主主義や自由がほしかったのではない。「大部分の人達は反ソヴィエト的な気分でなくて、望んでいたのはひとつだけ。生活がよくなること。」2000年の魔都モスクワでは、女性たちはシースル-で高級ホテルのロビ-を歩いている。夜には、見たことのないほどの美しい女性たちがクラブで勝ち誇っている。
著者のインタビュ-に対して、クレムリンで働いていた人物がこう指摘する。「あなたは人間に、人間の正義に信頼をおかれているようだが、いただけませんね。歴史とは、思想の生涯なのです。歴史を書いているのは人々でなく、時代です。人間の正義というのはクギで、そのクギに一人ひとりが自分の帽子をひっかけているのです。」典型的なヘーゲリアン。ひとりの人間という小さな空間の中に時代を映すなにもかもが隠れていると言う例えば小説家たち、個人という存在そのものがそもそも時代と社会の関係でしか現れないとするヘーゲル哲学、よく考えればふたりとも同じことを言っている。どちらからはいっても行き着くところは時代への内省。
「国民はふつうのものを待っているのです。糖蜜菓子がたっぷりある生活を。そして、皇帝を待っている。・・我が国はメンタリテイや潜在意識の面で皇帝の国なのです。・・父なる皇帝なのですよ。書記長、大統領というのは、わが国ではやっぱり皇帝なんです。」帝国主義へのノスタルジ-。2016年のいまではこれはロシア人だけの特権ではない。
「冬になるとここは雪におおわれるの。村がすっかり雪んなかだよ。・・首都はどうなってんの? ここからモスクワまで1000キロもあるからね。プ-チンとア-ラ・プガチュフはわかるけど・・あとは誰がだれやら。あたしらはここで、昔も今も同じ暮らし。社会主義のときも、資本主義のときも。春がくるのを待たなくちゃ。ジャガイモの植え付けをしなくちゃ。」そういえば来年2月に植え付けるジャガイモの植え付けのための準備をしないと。ことしの夏の長く続いた雨で北海道の種イモは期待できそうもない。どこからか調達しないと。
2023年9月22日に日本でレビュー済み
最近の若いロシア人や旧共産圏の若い人たちの価値観がどうなってるんだろう?と思ってましたが、それがよくわかりました。
美人はお金を持った年上の男に夢中だし、分不相応どころかどうやって買うんだろうと思うほどの高級品ばかり持っているセレブ風の一般女性がなぜ存在するのか、、その一方で詩を愛している人は尊敬されるが、お金儲けにはならない、、
ロシアソビエトは20世紀の初めからずっと戦争続きで、人は戦争のトラウマにずっと苦しんでいる、、というのは考えれば当たり前のことでした。
私は訳者と同世代なのでわかりやすい訳でした。
映画が存在するそうですので見てみたいです。
美人はお金を持った年上の男に夢中だし、分不相応どころかどうやって買うんだろうと思うほどの高級品ばかり持っているセレブ風の一般女性がなぜ存在するのか、、その一方で詩を愛している人は尊敬されるが、お金儲けにはならない、、
ロシアソビエトは20世紀の初めからずっと戦争続きで、人は戦争のトラウマにずっと苦しんでいる、、というのは考えれば当たり前のことでした。
私は訳者と同世代なのでわかりやすい訳でした。
映画が存在するそうですので見てみたいです。
2022年4月19日に日本でレビュー済み
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訳者あとがきに記されていますが、原書の巻末にある、評論家ナターリア・イグルノーワとの対談が本書では割愛されており、この内容を知ることができないことが非常に残念でなりません。
訳者の松本妙子さんには、いつかこの対談を含む完全版、または別冊でも良いので、この対談を日本人の目に触れられるようにしていただきたいと強く願います。
訳者の松本妙子さんには、いつかこの対談を含む完全版、または別冊でも良いので、この対談を日本人の目に触れられるようにしていただきたいと強く願います。